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『土曜日』 イアン・マキューアン (りつこさん)
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イアン・マキューアンの新作。

いやなんというかこの人は独特の世界を持った作家だなぁと思う。静と動のバランスが絶妙なのだ。ほとんど80%ぐらいが静で、どちらかというと「ああでもないこうでもない」「ああでこうで」と頭の中で考えをこねくりまわすような感じなんだけど、20%の動がものすごく効いていて、そこで巻き込まれずにいられなくなってしまうのだ。私の場合。

ずーっと静かな声で淡々と話していて、ある瞬間だけその声が鋭く激しくなって、今までが静かだっただけにものすごく驚いて印象に残ってしまう。その後また静かになっても、その前の衝撃が大きかっただけに、その静けさが前とは違う意味を持つようになる。そんな感じ。

裕福で幸せな暮らしを営んでいるある脳外科医の一日を描いた小説。幸福感に包まれて目が覚め、外を眺めていると飛行機が墜落するところを目撃する。それはこれから始まる今日という日を不吉に予言するようでもあり、今彼が感じている幸福がいかに壊れやすいものかを予見させるようでもある。
テロ、戦争、デモ。ニュースが伝えてくるのは不穏な事件ばかりで、このさきもっと恐ろしいことが起こるのではないかという不安をかきたてる。しかしそれはどこか遠い世界の物語のようにも感じられる。

それよりも、ボケ始めてきた母親、愛する娘と義父の仲たがい、巻き込まれた渋滞、そちらのほうが自分にとってはより身近で自分の幸せを脅かす不安の種だ。

同僚とのスカッシュでだんだん沸騰してきてケンカに発展しそうになったり、車のちょっとした事故で突然暴力の犠牲になったり。確かに平和に見える日常の中にも幾つも危険は潜んでいて今の平和を脅かす。

戦争について考え、家族について考え、平和について考え、愛する人と討論になり、傷つけあいたくないのに傷つけあったり、危ないところでどうにか踏みとどまったり。

そんないつもの土曜日が突然暴力的に踏みにじられる。それは遊びに行ってテロに巻き込まれてしまうのにも似ている。その足元をさらわれるような感じ、その時に感じる怒りと無力感。うああ。嫌だなぁ…。読んでいて本当にこわくて足の裏がさわさわしてしまう。

だけど優しさがあるのだなぁ。この人の小説には。そこがまたちょっと異質な感じがするんだけど、そこが好きだ。だから最後まで読むと、「ああ…やっぱりすきだった」と思うのだ。

私はこの医師が市場に行って魚を買うシーンがとても好きだ。

人間が成功し支配するための鍵は、昔から変わらず、情けをかける対象を限定することにある。何だかんだともっともなことを言っても、結局のところ、人を動かすのは手近にあるもの、眼に見えるものだ。

直接自分にかかわりのあることにしか本気になれないし、本当の危機に出会ったときなすすべもない。そんな無力な自分だけれど自分を支えるものがあって、それは家族だったり友人だったり仕事だったりするのだけれど、それを大事にしてその中で正気を保ってできるだけのことをやるのだ。

こんなにも不安をかきたてるのに、最後は光を感じさせてくれる。そこがいい。












posted by torakichi | 17:07 | メンバーズレビュー(りつこさん) | - | - |
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